よそ見 わき見 気まま旅

第12回  千代女の里

 松任は俳句の町です。加賀の千代女が生まれた土地だから当然、と言えばそうなのでしょうが、俳句が無理なく町に溶け込んでいる印象を受けます。
 松任の駅前広場には『千代女の里俳句館』が建っています。入り口では等身大の千代女像が来館者を迎えてくれます。「おや?右手に短冊を持っている。左利きだったの?」ふとそんなことを思いましたが、そんな事はないですよね。
 駅前を真っ直ぐ進んで大きな交差点を左に折れると、間もなく右手にギャラリー千代堂が見えて来ます。千代女の居宅が有った所です。そこの裏手には樹齢300年余りのなつめの老木が今も健在で、千代女の息遣いを伝えてくれます。「木からもののこぼるゝ音や秋の風」の秀句を生んだ木です。
 菊舎が松任を訪れた時千代女は、既に7年前に73年の生涯を閉じたあとでした。菊舎にすればさぞかし残念だったことでしょう。
 後に「東の千代女、西の菊舎」と並べて語られる二人ですが、同じ俳諧という空間に身を置きながら、両者の息遣いは静と動、或いは女と男に比喩されるほどの違いが感じられます。
 千代女に会えず残念な気持ちを込めて詠んだ「花見せる心にそよげ夏木立」の句にも、きっぱりとした菊舎の気性が感じられます。
 (中村 佑)    2014年8月1日



ホームへ